パーセントフォーアートとは何か?そして、この制度が実現すると、どのような効果や影響があるのか?

そういったことをまとめてご紹介します。

 

Contents

1、パーセントフォーアートとは?

 

パーセントフォーアートとは、

「公共施設を建設する際に、その費用の1%程度を予算として、その施設にパブリックアート等のアートを制作・設置しましょうという法律等に裏付けされる制度」

です。

 

つまり、この制度が法律等によって義務付けられれば、街中にアートが増えることになり、

人々は、必然的にアートに触れる機会が多くなります。

 

その具体的な制度は、国や地域によって異なりますが、

例えば、アメリカの半分ほどの州やフランス、デンマークといった欧米の国々は、早くから当該制度を取り入れています。

また、アジアでは、韓国や台湾でも積極的に導入されています。

 

日本では、群馬県が2023年より条例を制定し、取り組み始めたところであり、今後の展開が期待されます。

 

2、パーセントフォーアートの歴史や日本への導入について

このパーセントフォーアートの始まりはフィンランドやアメリカなどと言われていますが、

法律の制定等を伴う制度の義務づけを行なったのは、フランスが最初と言われています。

 

このようなパーセントフォーアートの制度が制定されるきっかけになったのが、

1930年代のアメリカにおいてでした。

 

なぜアメリカでパブリックアートが次々と生まれたのか?

実は、街中にアートを設置する、いわゆる「パブリックアート」が導入されるきっかけとなったのは、1929年に起きた世界大恐慌です。

この世界大恐慌は、文字通り、世界中を大不況が襲い、約10年ほど続きました。

深刻な経済の打撃を受け、非常に多くの失業者が生まれました。

この状況を変えるために立ち上がったのが、フランクリン=ルーズベルト大統領でした。

彼が行なった経済再生策が、「ニューディール政策」です。

ニューディールとは「新規まき直し」の意味で、救済(Relief)、回復(Recovery)、改革(Reform)の3Rを政策の理念として、アメリカの経済再建を行うことを目的として行われたものでした。

 

このような状況の中、深刻な影響を受けていたのは、アーティストも同じでした。

そこでニューディール政策の一環として、アーティストのための支援施策として1935年から行われたのが「フェデラルワン」です。このフェデラルワンは、美術だけでなく、音楽や演劇といった分野などのあらゆるアーティストへの支援を行うもので、5つの部門に分かれていました。

そのうち、いわゆる「ヴィジュアルアーティスト」への支援を盛り込んだものが「連邦美術計画」です。

この計画により、アーティストたちは公共空間に壁画や彫刻などを制作していきました。その結果、10000人ものアーティストが、20万点もの作品を制作しました。

この中には、ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコ、ベン・シャーン、ディエゴ・リベラなどなど、アメリカが世界の文化の中心となるのに不可欠だったアーティストたちが、この政策のサポートにより、アーティストとして生きることを継続することができたと言えるでしょう。

 

そして、第二次世界大戦後、アメリカは、フランスに代わり世界のアートの中心地となり、この時代を生き抜いたアーティストたちが、アメリカ黄金時代を築く原動力になっていきます。

 

フランスによるパーセントフォーアートの制度導入

アメリカでパブリックアートが次々と生まれていく一方、

世界の芸術の中心地だったフランスはどのような状況だったのでしょうか?

 

そもそもフランスがアートの中心になったのは、17世紀にさかのぼります。

欧州では、バロックが全盛の時代。フランスではニコラ・プッサンが代表的な存在でした。

 

1682年、ルイ14世によるヴェルサイユ宮殿の造営に伴い、フランスでは貴族文化が生まれます。

フランスは、カトリックが信仰される土壌。このように、キリスト教カトリックの盛んな国では、教会や城といった「建築物」には、彫刻や絵画が組み込まれるのが普通でした。

これ以降、フランスはその国力に加え、芸術が建築等に組み込まれることによって、数多くのアーティストが育つ土壌が育っており、このような土壌から、数々のアートが生まれていきました。

 

こういった背景からも、フランスでは、公共建築にアートを組み込むべきという風潮が強く、

1930年代頃から、近代化した建築物にもアートを組み込むべきという提言がなされていきました。

 

その結果、制度化されたのが、パーセントフォーアートでした。

フランスは1950年以降、この制度を利用して非常に多くのアート作品が誕生し、パブリックアートと都市計画など、非常に先進的な文化政策が推進されていき、世界の芸術の中心として今も世界中の人々から注目されています。

 

 

3、パーセントフォーアートが実現した結果、どうなるのか?その意義や効果とは?

 

アートが建築等に組み込まれることによる3つのメリット効果とは?

では、このようなパーセントフォーアートが実現することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

三つの観点から見ていきます;

 

1、その場所に人が集まり、経済が生まれ、社会が生まれる

公共の場にアートが設置されることで、この作品が魅力的であるほど、その作品を目当てにした「人」が集まります。

つまり、アートにより人が集まることによって、周辺にお金が落ち、人々のつながりができることによって、経済だけではなくソーシャルキャピタルも育まれることになります。

結果として、その場所や地域のアイデンティティや誇りを育みます。アート作品は、社会やコミニティの一員として受け入れられ、共有されることで、地域の結束や連帯感をも生み出す効果があります。

 

2、人々の心の豊かさを生む

公共の場にアートを取り入れることは、その周辺環境を美しく保つ動機となります。

また、建築物や施設のデザインや雰囲気を向上させ、利用者にとってより魅力的な場所にする役割があります。

さらに、人々は無料でアートに触れることができるので、人々の日常に芸術的な要素をもたらし、結果、心のビタミン剤のような役割を果たします。

 

3、アート産業が活性化し新たな雇用が生まれる

日本のアート産業は欧米に比べてまだまだ未成熟です。

逆に言えば、これからまだまだ成長する余地があるとも言えます。その起点となるのが、パーセントフォーアートなどに裏打ちされた、アート関連事業への後押しです。これまでの経験からも、経済が低迷すると真っ先に削られてきたのが、文化関連予算です。一方で、このような恒久的な制度が存在することで、アート市場の魅力が高まり、様々なプレイヤーが参画することにより、市場そのものが拡大していくことが期待されます。

結果として、日本における次の成長市場として、日本経済への貢献が期待できると考えます。

 

このように、パーセントフォーアートは、芸術を社会全体に浸透させ、アートの重要性を認識するための手段として重要な役割を果たします。建築物や公共施設の設計においてアートを組み込むことで、より魅力的でインスピレーションを与える空間が生まれ、人々の生活に芸術の価値が浸透することが期待されます。

 

4、パーセントフォーアートの日本における最新動向

 

2022年6月20日、日経新聞にて以下の記事が掲載されました。

公共建築の建設費、1%をアートに 経産省が有識者会議

経済産業省は公園や病院などへのアート作品の普及を後押しする。地方自治体や企業に建設費などの1%ほどを振り向けてもらうことをめざし、有識者会議で作品の購入を促す仕組みづくりを議論する。新型コロナウイルス禍で打撃を受けた芸術の活性化をめざす。

公共建築などの建設費の一定比率を芸術にあてる「パーセント・フォー・アート」と呼ぶ活動を広げる。フランスや米国の一部の州では、駅や大学などの建設費のうち1%前後を絵画や彫刻などに使うことを義務づけている。

経産省は経営者や経済学者、アーティストらが参加する有識者会議を立ち上げる。座長には大林剛郎・大林組会長が就く。

 

この動きに連動するように、6月27日、経済産業省HPで、「アートと経済社会について考える研究会」の設置について掲出。ベネッセの福武会長、大林組の大林剛郎会長などが中心となり組成されました。

 

さらに、群馬県はこの動きに呼応するように、パーセントフォーアートの条例を定め、令和五年4月1日を施行期日として、スタートしました。

 

このような動きに合わせて、前橋では、都内のアートギャラリーが新たなスペースをオープン

 

日本でも、動きが活発化してきました。

アジアでは韓国や台湾が代表的なパーセントフォーアートを取れている国ですが、

ようやく日本も、という形になります。

 

この裏側にはいろいろな「利権」があります。政治的な意図も存分に感じられるものです。

しかし、どのような裏があったとしても、アート産業が活性化していくことは、私たちアートビジネスを営む者にとって、そして、日本の未来を明るくする一つの可能性があるものとして、歓迎しています。

 

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