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彫刻作品のメンテナンス・修復
屋外に置かれた彫刻は、設置した日から劣化がはじまります。どの作品を、いつ、どこまで手を入れるべきか。当社は現況調査から劣化診断、修復計画の策定、施工の監修、報告書の作成までを一貫して担う「監修者」です。自治体・美術館・指定管理者・施設管理者の皆さまからのご相談を承っています。

※写真は、修復後の作品(札幌芸術の森 野外美術館)
よくあるご相談
次のようなご相談を、年間を通じていただいています。いずれも、状態を確認するところから承ります。
設置以来、一度も点検していない
記録が残っておらず、前回いつ手を入れたか分からない。まず何から着手すべきか判断できない。
予算要求の根拠がつくれない
「傷んでいる」ことは分かるが、優先順位と概算が示せず、財政部局・議会への説明ができない。
ぐらつき・傾きがあり不安
来館者や通行者に危険が及ばないか。触れられる位置にある作品をこのままにしてよいか。
作家が亡くなっており相談先がない
誰の許可を得て手を入れればよいのか。遺族・財団への連絡経路が分からない。
施工業者は見つかるが判断できない
塗装業者・営繕業者に見積は取れるが、その工法が作品にとって適切かを誰も判断できない。
再開発・改修で移設が必要
建て替えや外構工事にともなう一時撤去・保管・再設置。作品を傷めずに動かしたい。
当社の立ち位置
——施工者ではなく、監修者です
彫刻の修復は、塗り替えや洗浄といった作業そのものよりも、「何を、どこまで、どの工法で行うか」という判断のほうが難しい仕事です。判断を誤れば、作品の価値も、作家との信頼関係も失われます。
当社は現況の調査と診断、修復計画の策定、工法の検証、施工中の監修、そして報告書の作成を担います。実作業は、対象作品の素材と状態に応じて、鋳造所・修復専門工房などの施工業者に委託し、当社が全工程に立ち会って管理します。
| 1 調査 | 現地での目視検査、寸法計測、写真記録。必要に応じて高所作業車、傾斜測定、放射線透過検査を実施 |
|---|---|
| 2 診断・評価 | 作品ごとに評価レベルを付与し、劣化の内容と原因を特定。過去の調査記録があれば経年比較を行う |
| 3 修復計画 | 補修の手法案、優先順位、概算、実施時期の計画。着手前に小範囲での薬剤テストを行い工法を検証 |
| 4 監修 | 施工業者の選定支援、作業の立会いと工程管理、発注者・施設・作家側との調整 |
| 5 報告 | 修復記録の作成。発注者向けの報告書と、著作権者(作家・遺族・財団)向けの報告書を、それぞれ別に作成します |
著作権者への報告を、工程として組み込んでいます
彫刻の修復は、著作者人格権(同一性保持権)に触れる行為になり得ます。当社は作家・遺族・財団への事前確認と事後報告を、見積上も独立した費目として計上しています。一般の営繕工事との最大の違いがここにあります。
3つのサービス



このほか、移設・一時撤去・保管・再設置、寄贈受入れ時の状態確認、収蔵品の台帳整備、作品カルテの作成も承ります。当社で販売した作品以外についても、同様にご相談いただけます。
現況調査の進め方
自治体・美術館からご依頼いただく現況調査の標準的な流れです。仕様書がすでにある場合は、その要件に合わせて調整します。
事前協議・作業工程表の作成
ご担当者と対象作品の範囲、履行期間、納品物、立入りや作業車両の条件を確認し、工程表を作成します。窓口となる責任者を1名選任してお伝えします。
既存資料の確認
過去の調査報告書、設置時の図面、修繕履歴、作家との契約書をお借りします。前回調査との比較ができると、劣化の進行速度が分かり、次回の周期を決められます。
現地調査
目視検査、寸法計測、写真撮影を行います。高所・大型の作品には高所作業車を用い、内部構造に懸念がある作品は傾斜測定・放射線透過検査などの詳細調査を追加します。作家の立会いが望ましい作品は、立会いまたは写真・動画での確認を手配します。
評価と個票の作成
1作品1ページの個票に、作品基礎情報/調査基礎情報/調査結果/写真をまとめます。作品本体・取付部・台座・基礎・周辺環境の項目ごとに評価し、全体評価を付けます。
優先順位づけと補修手法案
評価がCの作品には補修の手法案を記載します。全体を「安全性」「美観」「構造」の観点で並べ替え、着手すべき順序と概算をお示しします。
報告書の納品
報告書(紙・データ)、現況写真データ、業務完了届を納品します。様式のご指定がある場合はそれに従います。
次年度以降の計画づくり
調査結果をもとに、複数年の保全計画と予算の組み立てをご相談します。ここまでを含めて調査の成果とお考えください。
成果物:作品ごとの「個票」
1作品1ページ、4ブロック構成で作成します。
| 1 作品基礎情報 | 管理番号/作品名/作家名/制作年/設置年/材質/寸法/台座の有無・材質 |
|---|---|
| 2 調査基礎情報 | 検査日/立会人/天候/検査方法(計画・実施) |
| 3 調査結果 | 作品本体(傾斜・ぐらつき/損傷・欠損・変形/サビ・腐食/ヒビ・盛り上がり)、本体取付部(コーキング・ボルトの劣化/取付部周辺)、台座・壁面、基礎、設置場所・周辺環境、全体評価と補修の手法案 |
| 4 写真 | 現況写真(正面・側面・背面)/異常箇所の写真(全体・細部) |
評価の基準
調査では、作品ごとに次のレベルを付与します。自治体の発注仕様書で用いられている区分に準拠しています。
| レベルA(良好) | 調査結果が良好な状態 |
|---|---|
| レベルB(経過観察) | 現時点で補修を要しないが、軽微な劣化が認められ、経過観察を要する状態 |
| レベルC1 | ごく軽微な劣化(目地の切れ、コーキング切れ等) |
| レベルC2 | 軽微な劣化(剥離、欠損、ひび割れ等) |
| レベルC3 | 著しい劣化 |
| レベルC4 | 安全性に関わる劣化。優先的な対応を要する状態 |
全体評価がCとなった作品については、補修の手法案を検討して報告書に記載します。
調査で見えてくること
ある野外美術館で、収蔵する屋外彫刻の全作品を調査した際の、評価の分布です。
| 評価 | 比率 | 意味 |
|---|---|---|
| A | 約49% | 良好 |
| B | 約17% | 経過観察 |
| C1 | 約6% | ごく軽微な劣化 |
| C2 | 約5% | 軽微な劣化 |
| C3 | 約16% | 約23%が優先対応の対象 |
| C4 | 約7% |
約4分の1が優先的な対応を要する状態でした。そのうち複数の作品は、記録上設置以来一度もメンテナンスを受けていませんでした。特別に管理の悪い施設ではありません。屋外彫刻を多数持つ施設では、これがごく一般的な状態です。
素材別の劣化と対処
屋外彫刻の劣化は、素材ごとに現れ方も原因も異なります。当社が実際の案件で扱ってきた主な素材と、その典型的な症状です。
| 素材 | 典型的な症状 | 対処 |
|---|---|---|
| ブロンズ | サビ・腐食の発生、鳥の糞の付着と固着、当初の着色(パティナ)の剥離・退色、取付部のぐらつき | 洗浄と糞害の除去、サビの除去、当初の状態を参照した再着色、ワックス処理。取付部・基礎の補強 |
| 真鍮 | 酸化被膜の堆積による光沢の喪失、洗浄剤の飛沫による変色痕、スリット部の汚損・腐食、目地シールの劣化、床板の浮き上がり | 酸化被膜除去剤の湿布処置、ポリッシャー・サンダーによる再研磨、手作業での研削仕上げ、酸化変色防止剤の塗布、目地の打ち替え。着手前にテストピースで薬剤の影響を検証します |
| FRP(強化プラスチック) | 表面塗装の劣化、水中設置作品のオズモシスブリスター(浸透圧による膨れ)、内部構造材の含水、クラック | 表面の再塗装、膨れ部の処置。屋外での耐用年数は一般に15年程度とされ、それを大きく超えた作品は継続的な監視と長期方針の検討が必要です |
| ホワイトコンクリート・石 | 表面の汚損、苔・カビ、ひび割れ、舗装・基礎のひび割れと不同沈下 | 素材を傷めない洗浄方法の選定、ひび割れの充填、基礎・周辺舗装の是正 |
| 金箔・彩色 | 箔の剥落、下地のサビの露出、塗装の大きな剥がれ | 下地処理からの再施工。作家・遺族・財団の意向確認を前提に工法を決定します |
| ステンレス・ワイヤー | ワイヤーの歪み、張力の低下、金具の摩耗 | 定期的な研磨、張力の調整、金具の交換 |
| 可動部を持つ作品 | ベアリング・軸受の摩耗、電装部品の劣化、係留金具の腐食・破断、帆・膜材の劣化 | 可動部の分解点検、部品交換、電装系の更新。外観からは判断できないため、定期的な内部点検が不可欠です |
点検の周期——「壊れてから」では遅い
作品には、素材と構造に応じた推奨メンテナンス周期があります。周期を過ぎた作品を放置すると、修復の範囲が広がり、費用は加速度的に増えます。
| 対象 | 推奨する周期の目安 |
|---|---|
| 屋外ブロンズ(清掃・ワックス) | 年1回程度 |
| 屋外ブロンズ(再着色を含む本格整備) | 10〜15年 |
| 塗装・彩色作品 | 5〜10年 |
| 可動部を持つ作品 | 5〜15年(機構により異なる) |
| 水中・水上に設置された作品 | 年1回の引き上げ時に専門家による確認 |
| 全作品の現況調査 | 10年程度ごと(前回調査との比較が可能になります) |
上記は目安です。設置環境(海沿い、幹線道路沿い、積雪、樹木の下)によって劣化の速度は大きく変わります。
動く彫刻は、自動車と同じように考えてください
可動部を持つ作品の劣化は、外観の汚れ具合では測れません。問題は内部——軸受、電装、係留金具といった構造の経年劣化です。自動車に車検があるように、稼働する機構には定期的な分解点検が要ります。破損したときに被害を受けるのは、作品だけではありません。
美観の問題であると同時に、安全の問題です
ぐらつきのあるブロンズ像、傾いた石の構造物、水上で係留の緩んだ作品。いずれも、来館者や作業従事者に被害が及ぶ可能性があります。施設管理者が負う安全配慮義務の範囲に、設置された美術作品も含まれます。
実際に、水上に設置された作品が横転して漂流した事例、ブロンズ像の接合部に明らかなぐらつきが確認された事例があります。いずれも、事前の点検で兆候を捉えられるものでした。
費用の考え方
作品の点数、素材、劣化の程度、現地の条件によって費用は大きく変わります。見積は、次の費目に分けてお出しします。内訳が分かれていることで、庁内での説明と査定がしやすくなります。
| 調査費 | 現地調査、写真撮影、寸法計測。作品点数と検査方法(目視/高所作業車/詳細調査)で変動します |
|---|---|
| 監修管理費 | 実施計画の策定、工程の監理、関係者との調整。人日単位で計上します |
| 技師作業費 | 搬出入、工場での造形・塗装作業。作業区分ごとに人日単位で計上します |
| 運搬・輸送費 | 施設から工房までの往復。美術品専用の輸送体制を用います |
| 出張・宿泊費 | 現地までの交通費、宿泊費。遠隔地の案件で発生します |
| 報告書作成費 | 発注者向けの報告書と、著作権者(作家・遺族・財団)向けの報告書を、それぞれ計上します |
| 全体管理費 | 保険料、安全対策、事務経費 |
現地を確認しないまま概算をお出しすることは、原則としていたしません。作品の状態は写真だけでは判断できず、後から金額が動くことが、発注者にとって最も困る事態だからです。まずは現地確認のご相談から承ります。
これまでの主な実績
近年手がけた3つの事例をご紹介します。いずれも、自治体・施設と作家(著作権者)、施工業者の間に当社が立ち、調整を重ねて実現したものです。
1 ダニ・カラヴァン《隠された庭への道》
札幌芸術の森 野外美術館(北海道札幌市)/2024年実施

環境彫刻の第一人者であるダニ・カラヴァンの代表作のひとつ。ホワイトコンクリートで構成された、全長220メートルにおよぶ環境彫刻です。
設置から20年以上が経過し、白さの美しかった作品は、経年劣化によって表面が黒ずむなど汚損が目立つ状態になっていました。また歩道等に亀裂が入り、鑑賞者にとって危険な箇所も生じていました。これらを踏まえ、総合的な補修を実施しています。
Before



長年の降雨等によりコンクリート部分が黒ずみ、鑑賞に耐えられない状態に。歩道の亀裂は安全上の問題でもありました。
修復作業




作品の素材を傷めない工法を検証したうえで、洗浄と補修を実施しました。
After



全体的に白さを取り戻し、作品の美観が蘇りました。
ただし、予算の都合等から設置当初の白さにまでは戻っておらず、今後さらなる調査・検討が必要です。金箔を貼付した箇所の修復も、今回は実施していません。課題は残るものの、長年黒ずんでいた作品に、20年以上ぶりに輝きが戻りました。
2 マルタ・パン《浮かぶ彫刻・札幌》
札幌芸術の森 野外美術館(北海道札幌市)/2023年実施

野外美術館の玄関口の池に浮かぶ、3つの白いキューブ。芸術の森の顔ともいえる作品です。
設置から40年ほどが経過し、さまざまなダメージが蓄積していました。水上に置かれた作品は、陸上の作品とは劣化の仕方が異なり、定期的な補修が欠かせません。
Before

作品に亀裂が入り、浸水した状態。水に浸かっている部分は表面が劣化し、コーティングが剥落していました。
After

内部の調査と表面への塗料塗布などにより修復。

長年2個しか浮いていなかった作品が、ようやく3つの姿で湖面に浮かぶ状態になりました。
3 佐藤忠良《翔韻》
仙台国際空港(宮城県名取市)/2023年実施
宮城県出身の彫刻家・佐藤忠良によるシンボルモニュメント。国際空港の玄関口にあたる場所に置かれたアート作品であり、その顔として美観の担保が求められます。
Before

震災時に海水を被ったこと、鳥の糞が数多く付着していたことから、著しく劣化。あまりにも痛ましい状態でした。
After

2日あまりで修復完了。元の美しさを取り戻しました。
このほかに手がけた作品
飯田善國《大地からの閃光》(札幌芸術の森/ステンレス)/新宮晋《雲の牧場》(札幌芸術の森/帆布)/佐藤忠良《蝦夷鹿》(ブロンズ)/ダニ・カラヴァン《マアヤン》(宮城県美術館/ホワイトコンクリート)/舟越保武《LOLA》(ブロンズ)/山本正道《海からの風》(瓦ほか)など。
屋外彫刻・パブリックアートの作品調査も数多く行っています。
行政のご担当者へ
——調達手続きへの対応
入札・プロポーザル・随意契約のいずれにも対応します。仕様書の作成段階からのご相談も承っています。
| 仕様書の作成 | 調査項目、評価区分、写真の要件、報告書の様式、提出部数について、実例をもとにご相談に応じます。参考見積の提出も承ります |
|---|---|
| 提出書類 | 履歴事項全部証明書、印鑑証明書、古物商許可証、会社概要、実績調書、業務実施体制表などをご用意できます |
| 実施体制 | 受託後すみやかに、窓口となる責任者1名を選任してお伝えします |
| 成果物の形式 | 報告書(紙・電子データ)、指定様式による個票、現況写真データ、業務完了届。ご指定の様式・形式に合わせます |
| 年度・予算への対応 | 単年度予算に収まらない規模の場合、調査年度と修繕年度を分ける、優先順位に応じて複数年に分割するといった組み立てをご提案します |
| 現場での配慮 | 一般利用者・通行者の妨げにならない作業計画、安全対策、作業員の識別(作業服・名札)、関係法令および環境マネジメントの遵守 |
まず「調査だけ」からでも承ります
修繕の予算がまだ確保できていない段階でも、現況調査だけを先行して行うことができます。調査結果は、次年度以降の予算要求の根拠資料になります。むしろ、調査を経ずに修繕の予算額を決めることのほうが、実務上のリスクが大きいと考えています。
よくあるご質問
他社から購入した作品、寄贈された作品でも依頼できますか。
作家が亡くなっている場合、誰の許可が必要ですか。
調査だけを依頼することはできますか。
1点だけの相談でも受けてもらえますか。
遠方でも対応できますか。
破損・落書きなど、緊急の対応は可能ですか。
施工は自社で行うのですか。
点検の結果、修繕が不要という判断になることもありますか。
まずは、状態を見るところから
作品の写真と、分かる範囲の情報(設置年、素材、作家名)をお送りください。現地確認の要否を含めて、対応の進め方をご案内します。ご相談の段階で費用は発生しません。
