弊社の仕事のひとつとして、
彫刻を代表とする立体アートの作家選定〜設置までを業務委託として請負、コーディネートするという仕事があります。
これまで、
仙台市の彫刻のあるまちづくりを始めとする「彫刻と町づくり」といった仕事に加え、
札幌芸術の森野外美術館や霧島アートの森といった「野外彫刻美術館の設立コンサルティング」などを30以上の単位で行ってきました。
そんな中で、弊社の直近の事例として今回取り上げるのは、
2017年に新たに建築された「富山県美術館」の屋外彫刻設置についてです。
今回、こちらをご紹介します。
富山県立近代美術館の老朽化に伴う新美術館「富山県美術館」建設プロジェクト
近代美術館は、1981年に建築され、素晴らしいコレクションを所蔵する美術館のひとつとして、30年以上の月日を経てきましたが、老朽化に加え新耐震基準に合致しないなどの理由から、新たに美術館が建築されることになりました。
そして、近代美術館は無事に2016年末をもってその役割を終えました。
新たに、富山駅の運河に佇む美術館を、日本を代表する建築家のひとり、内藤廣氏が建築し無事、2017年夏に全面開館を迎えました。
開館から遡る事3年。この新美術館の目玉として、シンボルモニュメントの設置について、検討が開始されました。
私たちは、そのモニュメントをどのように選定し、設置していくか、についての方向性を打ち出していくよう求められ、富山県と共に検討を開始しました。
作家の選定〜実現まで
彫刻家の選定にあたっては、以下の順番で検討が行われます。
・世界中の彫刻家やアーティストを選出し概観する
・制約条件を設定する
・委員会で合致する作家を絞り込み
・作家を決定する
以上のような方法で作家が選定されます。
加えて、選定されてからの実際の作品をどうするか、ということを作家が打ち出し、
その作品のスケッチや完成予定時期、そして、完成予定作品などを鑑みて、作品の設置方法を検討していきます。
結局、作家は、彫刻家・三沢厚彦氏が選定されたわけですが、
彼は、話が決まり現場を下見する前の時点から、インスピレーションとして浮かんでいたのが「白いクマ」でした。
実はこのインスピレーションについては、のちに非常に面白いことがわかりました。
というのも、どんな作品を制作するかを本格的に決定していくまでに、
富山県の成り立ちや、その土地の歴史についても理解を深めていきましたが、
その中で、日本の霊峰として名高い「立山」にはその開山伝説がありました。
この伝説の概要は、他にも多くの記述がありますので詳細はそちらに譲りますが、
簡略化して言えば、
「白いクマがその立山の主として崇められていた伝説」であり、
富山県の成り立ちにあたって、白いクマが非常に重要な役割を果たしていたという伝説でした。
つまり、制作を行うぞ、と決めた当初時点でインスピレーションとして浮かんだ「白いクマ」と、見事な「偶然の一
致」を果たしたため、関係者が皆驚くと共に、
アーティストが最初に得た着想が、裏付けられた形となったため、一気に具体的な作品へと落とし込まれていくことになりました。
アーティストのインスピレーションというのは、やはり、偶然ではなく、何かしらの理由があって起こっているのだと感じる体験でした。
4体のクマとハクタカ
結果、合計3体のクマと、ハクタカが屋外に設置され、1体の木彫クマが室内に展示されるに至りました。
結局、ハクタカは、立山の開山伝説の物語に沿い、急遽制作されることになりました。
長い時間をかけて検討され、完成されたプロジェクトでしたが、
結果的に、この5体の制作は、約1年半の中で行われたため、制作期間だけみれば非常に短期間だったと言えます。
そのような慌ただしい条件の中で制作されたAnimalsたち。
今や富山県美術館のシンボルとして多くの子供達に親しまれる存在となり、多くのメディアにも取り上げられているようです。
これらの作品が、美術館の顔として多くの人々に愛され、非常に高い人気を誇っているようで嬉しい限りです。
今後もこのようなプロジェクトが、日本においてもさらに盛り上がっていくといいなと思う非常に思い出深いプロジェクトになりました。
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