多様化する彫刻。

ひと口に「彫刻」と言っても、本当にさまざまな姿を見せてくれます。

 

街中に立つ銅像、駅前に設置されている石のモニュメント、美術館前に設置されている巨大な抽象彫刻、直島のシンボルの黄色いカボチャなどなど。

 

これらは全て「彫刻」です。しかし、その制作方法、作り方に注目してみると、彫刻の特徴がよく見えてきます。

ということで、今回は「彫刻の4つの作り方」についてご紹介します。

 

結論から言えば、以下の4つになります

 

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① 大理石や木などを彫っていく彫刻(カービング)

② 粘土や土などを使って型を作る彫刻(モデリング)

③ ブロンズ等の金属などを使って鋳造する彫刻(キャスティング)

④ 鉄やダンボール、プラスチックなどを使って組み立てていく彫刻(アセンブリング)

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詳しく見ていきます。

 

Contents

① 大理石や木などを彫っていく彫刻:カービング

みなさんよくご存知のこの作品は、《サモトラケのニケ》です。

この作品はどのように作られたのか?

制作方法を知るには、「素材」に注目します。

つまり、この彫刻の素材は「大理石」です。したがって、この彫刻は、その言葉通り「彫刻されたもの」です。

これを「カービング」といいます。

つまり、ある石からその姿を削り、浮かび上がらせる方法です。

ミケランジェロなどもこのカービングの名手であり、素晴らしい作品を残しています。

この「カービング」について、ミケランジェロが以下のような特徴的な言葉を残しています。

私は大理石の中に天使を見た。
そして天使を自由にするために彫ったのだ。

このように、カービングは、「引き算」する制作方法になります。

 

② 粘土や土などを使って型を作る彫刻:モデリング

この作品は、ロダンの奥さんだったローズの彫刻です。

この作品はロダンの代名詞である「ブロンズ」ではありませんね。

では何でできているのか?

ズバリ、「土」です。粘土で制作したものをそのまま素焼きしたものを「テラコッタ」と言いますが、

この作品がまさにそうです。

みなさん、図工などの時間に、粘土を使って制作したことがあると思います。

まさにその方法が取られるのが、この「モデリング」という彫刻の作り方です。

ゼロから作り上げていくので、「足し算」の制作方法です。

 

③ ブロンズ等の金属などを使って鋳造する彫刻:キャスティング

みなさんよく目にする「ブロンズ彫刻」は、このキャスティングという方法で制作されます。

このキャスティングは、「型」が必要です。「型」はモデリングによって、粘土などで制作されます。

そして、この粘土型を用いて、石膏などによって「原型」が作られ「型」が出来上がっていきます。

例えるなら、たい焼きを想像してみるとわかりやすいのですが、キャスティングに必要なのは、「たい焼き形の鉄板」という「型」です。この型に、小麦粉とあんを流し込むことで、たい焼きが出来上がります。

彫刻も同様にこの原理で、制作されます。

この「小麦とあん」の部分が「ブロンズ」に変わるわけです。

したがって、この型があれば、彫刻は無数に作れます。

「それって、芸術作品じゃないよね?」と思われるかもしれません。

その通りです。やはり、過去にこの点において議論が起きました。

「オリジナリティの問題」と言われたりします。

この型という特徴があるために、このような問題が起きるのですが、もう一つ問題として挙げられるのが、

「死後鋳造」です。作家が亡くなった後に鋳造される作品のこと。

キャスティングは、このような側面を孕む制作方法なのです。

 

このように、キャスティングは、「同じ作品を複数制作することができる」方法です。

したがって、一点の原型からいくつもの作品が生み出されるため「割り算」と言えます。

点数が増えるほど価値が下がるから、という側面もあります。

 

④ 鉄やダンボール、プラスチックなどを使って組み立てていく彫刻(アセンブリング)

比較的新しい制作方法がこのアセンブリングです。

最近はカラフルで、インスタ映えするような作品が増えましたが、これは、プラスチック(FRP)や、鉄などの金属に塗装したものなどが、素材としてよく使われるようになったからです。

この方法論は、オーギュスト・ロダンの「アッサンブラージュ」に始まり、ピカソやゴンサレスといった彫刻家たちが大きく展開していった制作方法です。

つまるところ、いろいろな素材を繋ぎ合わせたり、組み立てたり、くっつけたりしながら、一つの造形物を制作していくというプロセスになります。

このような方法が進展した背景には、「鉄」という素材への注目と、「溶接技術の発達」にあります。

20世紀に登場した自動車の存在と切っても切り離せない手法です。

この辺りの時代背景や変遷については、拙著『西洋美術は彫刻抜きには語れない 教養としての彫刻の見方』でご紹介していますので、興味がある方はお手に取って見ていただけたら幸いです。

 

 

以上、彫刻の4つの作り方についてご紹介しました。

彫刻を「作り方」というプロセスと、「素材」という観点から見ると、また彫刻の見え方が違ったものになるでしょう。

そして、この4つの方法とは違う制作方法が登場することで、「彫刻の定義」が拡大していくように思います。

*彫刻の定義については、別記事の彫刻とは?その定義についてをお読みいただけたらと思います。

 

彫刻をさらに楽しく鑑賞したいという方はぜひ、拙著をお読みいただけたらと思います。

 

彫刻とは?その定義について
彫刻の特徴「死後鋳造」とは何か?彫刻のオリジナリティ