実はあまり知られていないようなのですが、
法人や個人事業主の方にとっては、
「美術品は、減価償却できる=経費で購入可能」
です。
なんとなく、美術品を経費で購入する、ということについて誤解があるようですが、
ある一定の条件を満たせば、経費としての計上が可能で、
会社の利益を美術品に還元することが可能です。
つまり、美術品購入により節税することが可能となります。
細かい税制については、こちらの国税庁のHPに譲るとして、
今回は、その条件の概略を示すとともに、具体的なケースについて解説していきたいと思います。
Contents
減価償却が可能(=経費)となる美術品購入とは?
①事業に活用できる資産としての美術品
一つ目の条件として、経費購入が可能となるのは、その美術品の購入が、
「会社の、事業の、運営にとってその美術品が役立つか」
という側面を持っているかどうか、にあります。
例えば、美術品をオフィスに展示することにより、
そこで働いている人にとって癒しとなったり、
会議室に展示することにより社外の客人やクライアントに話題を提供したりと、
美術品が設置されることにより、その企業の事業にいかに役立つかが明確であることが重要です。
②原則100万円未満の美術品は、減価償却の対象
平成27年の法人税基本通達の改正以前は、20万円未満の美術品が減価償却の対象でしたが、
改正以後、この金額が100万円未満までに引き上げられました。
「取得価額が1点100万円未満であるもの(時の経過によりその価値が減少しないことが明らかなものを除く。)は減価償却資産と取り扱う」
と定義されています。
ここでは、この条文の解釈を細かにすることはやめておきますが、つまるところ、
100万円未満の美術品購入は、経費として損金算入可能であるということです。
上限が100万円までに引き上げられたことにより、
企業内に美術品を展示できる可能性が、とても大きく広がった
ということを意味しています。
これ以外にも、実は、美術品購入をして全額を経費として計上できるケースがあります。
簡単に言えば、屋外彫刻等の多数の目に触れる場所に設置される美術品については、その金額に関わらず損金算入が可能です。
このあたりのことは、少し複雑ですのでお問い合わせください。
減価償却が可能(=経費購入が可能)な美術品とは?
以上の金額と目的についての前提をクリアしていれば、減価償却が可能となり美術品を購入できます。
では、100万円未満の美術品とはどのようなものがあるのでしょうか?
実は、
「ピカソやシャガール、ロダン、新進気鋭の若手の現代アートなど、
幅広い種類の、絵画や版画作品、彫刻など」
が100万円未満で購入できます。
100万円未満というと、「あまり大した作品を買えないのではないか?」
と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
歴史に残るような作家の作品を経費で購入して、
それをオフィスなどに展示することが可能となるのです。
美術品の価格については、アートに不慣れな方からすると非常に難しいと思うかもしれません。
不透明な部分が大きく、どのような価格で取引されているかがよく分からないという方もいらっしゃるとおもいますが、
オークションデータベースや海外のartpriceなどのサイトで、誰でも相場をつかむことができる時代になりました(ただし、有料である場合がほとんどですが)。
私たちもデータに基づく金額設定を行っています。
予算やそれに合う作品について詳しく知りたい方は、私たちのような専門家にご相談ください。
減価償却の耐用年数について
償却をするということは、耐用年数(何年かけて経費として計上するか)があります。
その基準は大まかに言って、
・金属でない:5年または8年
・金属:15年または10年
となっています。
最近では、ミックスドメディアといって、様々な素材を複合的に使用する
アート作品があるので、その判断が難しいものもあるようですが、
一般に、その配合率や全体の特性などを踏まえて決定されることが多いようです。
節税と美術品
以上のように、平成27年の法令改正により、経費計上可能な金額が100万円未満にまで引き上げられたことにより、
美術品を節税対象として組み入れられる幅が大きく広がりました。
この100万円未満という範囲には、販売手数料や送料、額装代、台座代などの諸経費が
「含まれます」。
購入に際して、必要となった経費を全て盛り込んで100万円未満、ということです。
また、中小事業者であれば、取得価額が30万円未満の美術品については、少額減価償却資産の対象となり一括償却も可能となります。
このように美術品にとって税制が優しくなった(本当に嬉しいことです)ことにより、
自社の利益を、節税という側面だけではなく、有効に美術品へと「投資する」という考えのもと、会社のブランドイメージ向上や、競争力の向上に資する企業へと昇華するきっかけにしていただけたらと思います。
では、具体的にはどのような考え方に基づいて、企業として美術品を活用していけばよいのでしょうか。
ある実際あった事例をもとに、具体的なケースを次にご紹介します。
具体的なケース:企業が作品を購入する際の依頼内容
今回は、ある会社の実際にあったケースを基にして、
法人がどのように作品購入するかというケースを見ていきたいと思います、
<A社の依頼内容>
■ 製造メーカーA社が、22期目を迎えた
■ 今期も1000万円の利益が出る見込み
■ このメーカーは下請け体質から脱出するために、自社企画の製品の発信に力を入れており、自社開発した製品を低価格で、革新的なデザインを武器にして市場に浸透させようとここ1年の経営の目玉となっていた。
■ 社内改革のひとつとして、社員のクリエイティビティへの刺激を促すなどの目的で、自社ビルのスペースを、Googleなどの企業を参考にして再構成を検討している。その一環として、社員が働く空間に、アート作品を順次導入していきたいと考えている。
■ 全体的な空間構成を含め、弊社にそのプロデュースを依頼してきた。予算は全部で300万円。
<提案内容>
■私からは、3つの重要な観点があることを伝達
1、A社の経営戦略、理念・ビジョン、今後目指していきたい社会の中での関わり方
2、上記に照らしたアート導入の目的の明確化
3、社外にどのように見せるかのブランディング、広報
これらを十分に検討し、経営に生きる形での提案を実施した。
- 「デザインで事業を牽引する」という戦略に対して、「商業デザインも手がけるが、自分を彫刻家と称し、アーティストとして十分な成果を残してきた若手彫刻家の彫刻作品SCULPTURE A(価格80万円)
- 新進気鋭の若手ペインター。デビュー早々、若手の登竜門的な賞を受賞した作家の絵画B(価格60万円)
- 以上の選択肢に加え、まずは柱となる、社内のシンボル的な存在としての彫刻(旗印としてのアート)を設置することを目的とし、ここ数年で大きく成長したアーティストCの立体作品(価格95万円)
その結果、3作品を購入。全てを減価償却資産として経費購入。
会社のエントランス部分に、この3作品が展示され、来社する人たちからは様々な反応が寄せられている。
会社で美術品を購入する意義
以上のようなケースはフィクションですが、実際によくある依頼のひとつです。
美術品を購入するというと、経営者の趣味のように思われ、自分には関係ないと思うかもしれませんが、
美術品を展示することで、
「空間の雰囲気を大きく変える力」
があります。これにより、社員ひとりひとり、そして、さらには企業文化という目に見えない雰囲気にも左右してきます。
これは実は、良い意味でも悪い意味でも、です。
有名なアートだから良い、というわけではなくて、やはり、そのアート作品が持っている
「気」
というものがそれぞれあります。
良い気のアートを展示すれば、その空間も良い気で満たされるでしょう。
悪い気のアートはその逆となるでしょう。
また、これらのアートを複合的に組み合わせることにより、その企業独自の雰囲気・文化をアートを通じて、間接的にですが、確実にその企業を形成することに役立っていきます。
これがアートを会社として購入する意義だと思っています。
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今回の話については、法律や税制が絡むことなので、
慎重に、丁寧に、説明する必要がありますが、
至極単純化して、間違いのない範囲で説明しました。
その点を踏まえ、あくまで「こんな制度があるのか」という知識を得ていただき、
実際の購入に際しては、専門家に必ず相談するようにしてください。
私たちも、総合的な戦略やコンセプト策定から、単品での美術品購入まで、お手伝いできることがあれば良いなと思っています。
また、既成の美術品だけでなく、その空間にあった作品を、作家に依頼して制作するということも可能です。
これをコミッションワークと言います。こちらの記事もご参考ください。
※コミッションワークとは?/コミッションワークの実現方法
今回ご紹介したような「国として設定してくれている制度」を正しく有効に活用することで、
オフィスや会社といった、どうしても殺伐としてしまいそうな場所を、
アートで彩ることができたら良いなと思います。
是非、広く知っていただき、活用してくださればと思います。
これまでよりも美術品の購入が活発になり、多くの企業の社長室やエントランスなどに「良い美術品、アート」が飾られているような会社が一つでも多く存在できるよう、サポートしていきたいと思います。
「アートのチカラで、人々の精神的な豊かさを実現する」
※日本および世界の彫刻家に関して